いい会社視察記録

西精工株式会社


久々に「理念経営実践企業の研究シリーズ」です。いつ以来だろうと調べてみましたら、なんと1年以上前のECスタジオ(現Chatwork)社を最後に書いていませんでした。もちろん、たくさんの理念経営実践企業へ視察に行ってきましたから、研究をさぼっていた訳ではありません。この間書いてこなかった理由としては、理念経営実践企業にみられる法則的な特長について、これまでのレポートでほぼ指摘してきたと感じていたからです。

ところが、理念経営2.0ともいうべき進化系の経営を実践してきている企業が出始めていることに気づかされています。このことについては422号で指摘しましたが、そのうちの一社が四国は徳島にある西精工株式会社です。同社の三度目の視察をして、改めてステージが上の理念経営を感じましたので、今週号で取り上げさせていただきます。

同社の創業は大正12年4月と古く、社歴は89年になろうとしています。同社が現在まで持続可能ならしめたものはその独自技術にあります。同社の主力商品はナットです。1300種類もの品種があり、あらゆる用途に応えられる製品が開発されています。7~8割は自動車の部品に使われています。ニーズに応えるために一貫生産体制がいち早く構築されています。原料である鉄も新日鉄から直接原材料を仕入れ、金型成形機も自社開発しています。四国という地域にあることから輸出コスト面での不利があるため、小さい製品に特化し、ナノテク技術を発達させることに成功しています。

技術を極めていくことで「他にはつくれないもの」「つくれたとしても品質はダントツ」をポリシーに選ばれる会社となることに成功しています。結果、売上高経常利益率もリーマンショックのあった年を除き、この5年間は10%を下回ったことがありません。

独自性を極め、安定した経営体質を創りあげておくことが理念経営にアクセルを踏み込める絶対条件となることを再認識できました。まずは高収益体質の企業になることです。

創業者の一族の系譜を継ぐ現社長の西泰宏社長がお家の事情で社長に就任したのが10数年前です。当時は雰囲気が暗く、挨拶もろくにできない社員だらけだったということです。社員の離職率が高く根本的な経営の変革が必要だと感じた西社長は、会社が大切にしてきたもの、すなわち創業の精神へ原点回帰しました。2006年に1年かけて経営理念を制定したそうです。「何のために」をはっきりさせること、もちろんそれは社員の幸せの実現のために、そのためにお客様の満足度を究極に高めていくこと、これに尽きます。それを経営理念として入魂させることから理念経営ははじまります。

そして、その経営理念を実現させていくために、社員一人ひとりの心に理念を落とし込むための取り組みを、日々本気で半端なく実践していくことを徹底していきます。

西精工を理念経営2.0と呼ぶのは、この取り組みが文字どおり半端ないからです。

新経営理念を実現させていくために、まずそれまで唱和していた社是を捨てたそうです。当時の社是には「安く提供すること」が謳われていましたが、大量生産の時代が終わったと認識している西社長は、これは違和感があるとすっぱりと捨てました。また「いい職場をつくろう」といった言葉も、これからの時代を考えたときに自分たちの職場だけをよくしても持続性は高まらないということで捨てています。地域を元気にしていく企業にならなければ、地域から選ばれず、発展もないと新経営理念から感じて行動しているのです。また、各種会議の報告会でも、多くの会社では営業成績を真っ先に報告し合うことが日常茶飯事になっていることでしょうが、お客様満足を高めるとしているのに自分たちの売上利益の話を先にするはおかしいと、お客様本位の話をしてから結果として数値を確認するようにしたといいます。

新SVC通信 第444号(2012.07.30)より


西社長は、社長就任後、もっといい会社にするためにはこうあるべきと「べき論」で社員に接していたそうです。しかし、これでは全く成果が出なかったと回想されています。2006年に経営理念を新たに打ち立て、理念を通じて社員と対話するようになってから結果が出始めてきたと語られていました。

理念浸透は、理念経営を志す企業では重大なテーマであり、苦労するポイントです。西社長が取り組んできたこと、それはまさしく本気度がMAXであることを感じさせてくれます。取り組みの一部をご紹介していきましょう。

A4で1~2枚、毎日必ず経営理念に関することについて全社員にメッセージを送り続けたそうです。そして、それに対して社員からあったレスポンスに対しても必ずその日に返事をしたそうです。これを毎日3時間くらいかけてやり続けたというのです。これは並大抵の努力では継続できないことです。なぜ継続できたのかと尋ねると、社員からのレスポンスがよくなってきている手応えが感じられ、だんだんこちらの言っていることと社員が思っていることのベクトルがあってくるので、楽しく続けることができたというのです。

このメッセージは、あの2011年3月11日までは毎日続いたそうです。さすがにあの大震災の日にはメッセージが出来なかったそうです。それからは不定期となったそうですが、そこまで社長がメッセージし続けた経営理念に対する思いは、その後、社員たちの手で冊子になり、今では勉強会などで活用されているそうです。

沖縄教育出版に影響されたそうですが、朝礼を毎日1時間近く実施しているとのことです。西精工の朝礼の特長は、3~4人が一組になって、必ず参加者がスピーチをする時間を取っていることです。以前は20人くらいの単位で行っていたそうですが、そうすると話さなくてもいい人間が必ず発生してしまい、また笑う機会も少なく、これでは効果的でないと現在の形にしていったとのことです。同社のフィロソフィーについて自分の仕事や日常で起きたことを被せて少人数で話し合わせると、100パーセント全員が笑うことになるというのです。たしかに自分のことを話すときは笑顔になっています。西精工の朝礼は「大笑いしている朝礼」ということで、いまではマスコミが取材にくるまでになりました。

書籍『7つの習慣』を基本書に、毎月読み合わせの勉強会をしているそうです。生き方、働き方をじっくりと考え直す機会を毎月設けているのです。これは完全に理念研修を実践しているのと同じ効果が得られているに違いないと感じました。そして毎日1時間、「整理・整頓・清潔・清掃・しつけ」の5Sを実施する時間をとるというのです。社員によってどの時間にそれをするかは自由のようですが、この効果で社屋の中はピカピカでした。製造業とは思えない社員の笑顔や気配りの素晴らしさもこれが要因でしょう。

全社員が自分の人生理念を掲げ、10の信条をつくり、死ぬまでにやりたいこと30項目を挙げる個人別ミッションステートメントをつくっています。綺麗な食堂の横にそれは貼り出されていました。その内容がぎっしり濃いもので本当に感心させられました。理念経営を実践し、2年かかって全員が出来るようになったとのことです。これは大変そうだと一見して思いましたが、これを実行できたら間違いなく素晴らしい人生を遂げられるだろうということも確かに感じ取れました。

いかがでしたでしょうか。厳しいですが社員一人ひとりが本気で幸せになることを目指し、確実な実践をしているのです。理念経営2.0と称したのは、この確実性が格段と進化していると感じさせられることが理由です。同社の最新の社員満足度調査では満足度91.3%という驚異的なレコードを記録しています。

新SVC通信 第445号(2012.08.06)より



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