いい会社視察記録

宮崎珈琲館


52年ぶりに爆発的噴火を起こした鹿児島、宮崎県境の霧島連山にある新燃岳の火山灰が一帯に堆積している宮崎県は都城市にその店は存在していました。都城市の市内からさらに人里離れたひっそりとした場所に宮崎珈琲館がありました。珈琲館というと全国いたるところにあるUCC系列の喫茶店をすぐに連想しますが、そことは全く何の関係もありません。1973年に珈琲専門店としてオープンし、現在は60種のメニューのあるスパゲティ専門店を営んでいます。

その店に入った瞬間、人本主義の理念経営が貫かれている職場独特の空気感がありました。これはどこかで感じた感触と同じだと思い、どこだろうとしばらく考えていました。お店だったので最初、接客の多い企業、例えばバグジーや川越胃腸病院をイメージしました。確かに両社に似た雰囲気があるのは間違いないのですが、もっとしっくりとくる企業があったはずなんだが…と思案していました。

ほどなくして、あっと気づきました。

社員のみなさんが心の底から来客をおもてなししようというとても強いホスピタリティを感じたあの時、そう、忘れもしない初めて訪ねた伊那食品工業で感じたそれだったのです。創業50周年記念のレセプションで400人の社員一人ひとりが2000人の来客をお迎えしていた時に感じた感謝の心と同じものだったのです。

宮崎珈琲館はホームページもつくっておらず、チラシもハガキサイズのものでおよそマーケティングには何ら効果があるというものではありません。都城市内からさらに遠く離れた田園地帯に店はあって、価格設定も今や東京でもあり得ないランチ1600円~という値付けをしていました。にもかかわらず開店前には行列が出来ていました。休日には300~400人程度の来客があるというのです。

価格競争も立地条件も、そんなことは中小企業の言い訳と教える坂本先生の中小企業経営革新論が忠実に具現化されていた教科書のような会社でした。しっかりとお客様とエンゲージされ、選ばれているからこそ実現出来る経営を実践していました。なぜこのような理想の経営状態が達成できているのでしょうか。

他にはない商品力(主力のパスタ、ピザ、数十種類のビュッフェ料理が全部旨い。なんとドレッシングは楽天市場で売上No.1を達成していました。)に加えて、「一人ひとりの社員の抜群の人間力が醸し出す素晴らしいお店の雰囲気」を実現させた、人本主義の理念経営がほぼ完ぺきに貫徹されていたからに他なりません。これまでみてきた人本主義の理念経営成功企業に共通する特長が、ここ宮崎珈琲館ではものの見事にきれいにトレースされていたのです。


ここもまた、はじめから理想的な会社が出来ていた訳ではありません。ある客のひと言がきっかけで、紫村公文社長は、すべての原因は外にあるのではなく、内すなわち自分にあるということを悟り、損得ではなく善悪でものごとを考えるようになったといいます。

仕事以外の享楽も慎み、人生はあっという間に終わる、真剣にやらなければと心を入れ替えました。それまで店ではスタッフが定着しておらず、その理由は働きやすい職場になっていないからだと考え、社員第一主義に切り替えていきました。しかし、それまでの長年の経営の垢はなかなかとれず、いいと思ってやってもなかなか結果が出ない日々が続きます。しかし、転機が訪れます。

経営革新をしたちょうどその頃にパートとして入社し、今では同社の屋台骨を支える存在となる現取締役の中村聖子さんがいました。中村さんは当時店を仕切っていた料理長とことごとく方針、考え方がぶつかっていました。この時、真に客のこと店の将来を考えて意見具申をしているのは、管理職である料理長ではなく、入ったばかりの一介のパートである中村さんであると理念に生きることになった紫村社長は目を見開くことが出来たのです。

そして、どんどん中村さんの意見を取り入れていったのです。なかなか容易に出来る決断ではなかったと思いますが、そうした社長の本気の決断が社員の信頼感を勝ち取っていきます。理念はじわじわと浸透し、職場の雰囲気についていけなくなった料理長はやがて去ったといいます。少ない人手のなかで大変だったはずですが、中村さんを中心により一層一体感のある職場に長い時間をかけて変貌し、今の理想に近い職場が実現するに至りました。

この間、10年だったといいます。

しかし、それだけの間ぶれずに人本主義の理念経営を貫いてくると、職場のスタッフは伊那食品工業に見劣りしないレベルに人間力が向上してくるのです。本当に社員の笑顔、感謝の心、モチベーションの高さはすごいものがありました。

注目すべき企業をまた認識しました。今後も宮崎珈琲館を継続して見守っていきたいと思います。

新SVC通信 第373号(2011.02.14)より



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