第1078号 人的資本経営ではなく人本経営を実践すべし
2025.3.31
人的資本経営は人を大切にする経営ではない
人を大切にする経営学会の坂本光司会長は、かねてより人本経営という言葉を使用されておられますが、2008年のご著書「日本でいちばん大切にしたい会社」の上梓をきっかけに、幸せ軸という確固たる経営のあり方として人本経営という用語は定着してきたように実感しております。遅れること2020年に人的資本経営なる言葉が登場してきました。表現が似ていますが人的資本経営は人を大切にする経営にあらず、依然、業績軸経営の範疇に軸足を置いており明確に違いがあります。将来に禍根を残さぬよう経営者はその違いを心して経営していくことが肝要です。永続のために実践すべきは、断じて人的資本経営でなく人本経営です。
人的資本経営が誕生した経緯
「人的資本経営」という言葉は、2020年8月、米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対して「人的資本の情報開示」を義務づけると発表したことが端緒です。これにより、人的資本経営の流れは加速してきました。リーマンショックで名だたる企業が失墜していく現実にSECは呆然としました。しかし、Googleやザッポス、サウスウエスト航空など兼ねてから働くpeopleにフォーカスしていた企業群はたくましく大不況を乗り越えていることで、優良企業の指標としてヒトの重要性に気づきました。しかし、当時はモノ・カネの健全性は、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表でわかるが、ヒトは何をみればいいのか?との課題に直面したのです。そこでSECは国際標準機構(ISO)に働きかけ、企業における人事・組織・労務に関する情報を開示するためのガイドラインを作成するよう要請し、ISO30414という指標が公表されました。この規格が人的資本の情報開示の国際基準として世界に潮流になってきたというのが現況です。日本でも、東京証券取引所が2021年6月に、人的資本に関する情報開示という項目を追加しています。これで人的資本経営が注目の的となった訳です。
フェイクニュースに引っかかってはいけない
2020年の頃、筆者は期待しました。世の中がこれで一気に業績軸から幸せ軸へ向かうのではないかと。しかしながら、5年が経ち、人的資本経営を実践していると公言している企業の多くが、どっぷり業績軸に軸足を置いている実態が現実であることに、その願望は泡と消えました。その理由は第1037号で解説したとおり、人的資本経営は手法にとどまり「あり方」の提言でなかったからです。このため玉石混交状態になり、第1073号でも指摘したとおり、東洋経済のような大メディアですら人を大切にする経営(人本経営)を日本的経営と混同し、人を資源として扱ってきた悪しき経営とフェイクニュースを垂れ流す今日に至っています。
そして真実を学んでいない経営コンサルタントたちも、人的資本経営は最新の経営モデルだとして、その実現のためにとジョブ型雇用といった実態が完全に業績軸の経営手法を導入したほうがいいと勧めてくるのですから救いがありません。第1067号でお伝えしたとおり、「経営コンサルタント業」の倒産は過去最多となっています。業績軸で行き詰まっている企業に対して、さらに目先だけ変えた新たな業績軸経営を指導しても結果が出せず企業と共に消えてなくなっているのです。
経営者の慧眼にかかっている
前号でお伝えしたヒグチ鋼管さんは、およそ10年前に業績軸から幸せ軸への脱皮していくことの重要性に気づき、愚直に人本経営を実践し、低離職率・新人採用の成功・好業績という永続への道に前進していくことが叶いました。樋口社長はおっしゃっています。「当社は、コンサル料を目的に近づいてくる経営コンサルタントとは接点がないし、業績軸で人的資本経営をうたう話は多いかもしれませんが、私たちはそこにアンテナを張っていません。小林先生とは出会うべくして出会ったご縁だと思っています。」慧眼としか言いようがありません。そして、だからこそ結果が出ているのです。
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