第1058号 塚越寛さん、伝記本出る その参

第1058号 塚越寛さん、伝記本出る その参

「評伝 伊那食品工業株式会社 塚越寛」

伝説の社員旅行は1973年に始まった

「この人たちを少しでもいい環境で働かせてあげたい。設備も新しくしてあげたい。それには利益がいる。当時は年輪経営なんていう理念的なことを考える余裕なんてまったくありませんでした。ただただ楽にしてあげたい。その一念でした」

1973年、社員数22名、初の海外社員旅行、香港・マカオへ。会社が全額負担。社員は喜び、また行こう、仕事頑張るとモチベーションあがる。

<小林コメント>

伊那食品工業の社員旅行は、社員全員が心待ちにしていることで有名ですが、黒字化から6年後に挙行されています。1973年は第一次オイルショックがありトイレットペーパー不足になるなどの社会環境が大変な状況です。新婚旅行もまだ国内が主流で、大多数の日本人にとって「高嶺の花」であった海外旅行へ全員で行く、しかも費用会社持ちということで、どれだけ社員が感動したことでしょう。未来工業もそうですが、普段は倹約に徹するものの、社員旅行のようなイベントごとには支出は惜しまないという姿勢が、とてつもなく絆感を醸成するのだと学ばされます。

早くも専属の研究員を採用

1974年、専任の研究員を採用。36人中、研究職2名配置。この頃(事業を受け始めて17年目)から理念を意識し始める。

「他と同じことをやっていては結局、価格競争になる。そうなれば利益が圧縮され、会社の成長も望めない。研究開発で他にないものをつくらなければならない」

<小林コメント>

「成長の種まきは怠らない」という経営方針は伊那食品工業の三本柱の一つと認識していますが、その原点がここに垣間見えます。近年のニュースでは7割の中小企業が新規事業を実施できていないと報じられていますが、それでは先は見えています。歯を食いしばってでも未来投資をし続けることが重要であるということをこの伊那食品工業の取組みに学びましょう。

正しいと思わなければルールを守らなくともよい

英弘氏の回想・・・ああしろこうしろと言われた記憶はない。ただ一貫して「人に迷惑はかけるな」と。迷惑をかけないことだったら自分の判断でやっていい。校則も正しいと思わなければ守る必要ない。校則とか世の中のルールはあくまで目安。ルールを守ることが一番良いことではなく、正しいことをする。人に迷惑をかけないことが大切だ。

<小林コメント>

息子さんの回想も評伝では幾度となく紹介されていますが、ルールは目安という表現が印象的です。視察に行くと同行の社労士が、必死になって就業規則や評価制度についてのこだわりを聞き出そうと質問しますが、そのたびに英弘社長は「あるにはあるけど、、、重視していない。あくまで目安なんでね」と返答されています。人を縛り付ける制度よりも大らかに人を大切にする風土を育むほうがより重要なのだと改めて学びになります。

チリ、モロッコ、インドネシア、韓国の4か国、数十年にわたって取引が続いている。どの国とも契約書を交わしていない。

「お互いちゃんと約束を守っていれば、契約書なんていらないんですよ。外国は契約書文化っていうけれど成り立つんです。やっぱり信頼関係ですよ」

<小林コメント>

圧巻の性善説経営としか言いようがない。信頼するから信頼が返ってくるのです。~以下次号へ続く

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