第1032号 幸せ軸への変革の大切さが学べる旅館 松本楼
2024.4.8
幸せ軸への変革の大切さが学べる旅館 松本楼
業績軸から幸せ軸へ、この経営課題にわかり易く答えを出して、
他社のよい参考事例にもなるベンチマークができました。
草津温泉と並んで群馬県を代表する名湯といわれる伊香保温泉の街に
ひと際輝きを放つ旅館宿「松本楼」をご紹介します。
2012年の悲劇
先代が日比谷松本楼で修業し郷土に戻り洋風飲食店を始めたのが60年前で、その後旅館業へと多角化し、
今や繁盛店としてその名を馳せるまでになりました。
しかし、2012年に引き継いだ現在の経営者である松本光男社長、由起女将のもとに激震が起きます。
当時、スタッフは売店、フロント、車両などそれぞれの持ち場でしか仕事をしていませんでした。
これでは偏りがあり、非効率だと考え、マルチタスク、多能工化をしようと経営改革に踏み出しました。
一人三役ができるように新しく生まれ変わるという思いで新たに8名の新入社員も迎い入れました。
しかし、スタッフたちの対応は冷めていました。
「そんなことをするために雇用されていない」と一週間で10名が退職してきました。
退職した社員が近隣の旅館ホテルへ転職し、あろうことか「こっちのほうが楽だよ」と
残った社員を引き抜き、なんと半年間で85名のうち30名が退職していくという悲劇に見舞われます。
8名の新人も全員辞めていきました。松本楼はつぶれる、という噂が広がりました。
悩みに悩んだ松本ご夫妻は、倫理法人会の先輩に辛い胸の内を打ち明け、すがる思いで頼りました。
傾聴がわが身を救う
その先輩は、こう語ったそうです。「辞めていった社員のことをどう思っている?」
すると女将は間髪入れずに「恨んでいる!」と口にしてしまいました。
「それだったら最後は二人になってしまうよ」と返され、
このままだと皆辞めっていってしまうと諭されました。
ではどうしたらいいのかという夫妻に問いかけに対して、
本気で取り組むならという条件でその先輩は助言をしました。
「辞めていった方々の今までの働きに心から感謝してください」
言われてすぐに出来るはずもありませんが、仕事を終え、休む前に忠告に従い、
夫婦で話し合いをとりあえずしてみることにしました。
冷静になって辞めていった社員がどんな仕事をしていたか、思い起こしていったのです。
すると、午前零時を過ぎても宴会の手伝いしてくれていたAさん、
夏の暑い時詰まってしまった下水溝を泥まみれになってゴミあさりをしてくれていたBさん、
といった具合に走馬灯のように思い起こすことができました。
あんなにしてくれたのに当たり前の態度でいたり文句を言ったり、
ずいぶんひどいことをしたりしていた自分たちの姿がそこにあって、
皆に寂しい思いをさせてしまっていたのだと二人で泣いてしまったそうです。
2か月で感じられた幸せ軸経営の効果
それから残ってくれている社員に対して感謝の心で接するようになり、2か月もした頃、
「最近、辞める人いないね」と社長に語る女将がいました。
首の皮一枚残り、ここから幸せ軸経営へと松本楼は変貌を遂げていくのでした。
それまでは、社員の高齢化、少ない休日、人事異動なし(助け合わない職場)、
中途採用者のみ、経営数値はクローズといった典型的な業績軸経営の限界兆候でしたが、
幸せ軸への経営改革が進むにつれ、社員の平均年齢30.5歳、休日105日、マルチタスク実現、
経営情報オープンへと様変わりし、企業風土は劇的に改善され、
それに新卒者が反応してこの5年間で34人もの新規採用を実現するに至っています。
社員さんへのクロストークでは、
「先輩が自分のことを思ってきちん叱ってくれることがありがたい」
「主人公になれる職場」「経営者との距離が近い」
「大学のゼミのような集まり」「愛情を与えてもらっている」など
職場での関係の質の良好ぶりがよく伝わってきました。
未だに業績軸経営にあえでいる旅館が多いのを尻目に、
よくも自力で幸せ軸経営に建て直したものだと感心させられました。
ご夫婦が防波堤になり、世間の風から社員を守り育んでこられたのだと思うと、
そのご苦労が偲ばれ、涙がこぼれる思いになりました。
これからも応援していきます。
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