第956号 「人的資本可視化指針」、公表さる
2022.9.12
「人的資本可視化指針」、公表さる
政府が、8月上旬には公表するとしていた人的資本可視化の指針が
8月30日にようやく公表されました。
新しい資本主義実現本部事務局発となっています。
期待していましたが、資料がマニアックかつ広範囲過ぎて、
果たして「指針」といえるか疑問です。
残念ながら、今回の指針では、
こういうものを開示してくださいという手引き、マニュアルという段階に
至っていませんでした。
読み込み理解できる企業がどれほどあるのだろうかと思ってしまいました。
それでも要約をしてみたく存じます。
1.人的資本の可視化を通じた人的投資の推進に向けて(背景と指針の役割)
持続的に企業価値向上を推進させるため「無形資産」が重要で
人的資本への投資はその中核要素であり、
「サステナビリティ経営」を実現できる企業がどうか見極めるため、
多くの投資家が、人材戦略に関する「経営者からの説明」を期待している。
このため「人的資本の可視化」が不可欠になってきている。
経営者自らが人的資本への投資についてコミットし
経営戦略、人事戦略を関連づけて人的資本の可視化を実現していくよう
投資指針は情報開示のあり方について焦点をあてた。
2.人的資本の可視化の方法
人的資本の可視化について、企業・経営者には、次のことが期待されている。
経営層・中核人材に関する方針、人材育成方針、人的資本に関する社内環境整備方針などについて、
自社が直面する重要なリスクと機会、長期的な業績や競争力と関連付けながら、
目指すべき姿(目標)やモニタリングすべき指標を検討し、
取締役・経営層レベルで密な議論を行った上で、
自ら明瞭かつロジカルに説明すること。
「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの要素は
有価証券報告書に新設が予定されるサステナビリティ情報の記載欄においても
採用される方向となっており、
人的資本についてもこの4つの要素を検討することが効率的である。
具体的開示事項の検討は、大きく、次の2つの類型に整理される。
(a)自社固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組・指標・目標の開示
(b)比較可能性の観点から開示が期待される事項
3.可視化に向けたステップ
基盤・体制確立(取締役会・経営層レベルの議論、従業員との対話など)、
可視化戦略構築(価値協創ガイダンスに沿った人的資本への投資や
人材戦略の統合的ストーリーの検討など)について記載。
4.有価証券報告書における対応
今後、開示府令の改正を経て、
有価証券報告書の記載事項として上場会社等の開示が求められていく。
①有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」の新設
②人的資本について「人材育成方針」、「社内環境整備方針」を
有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目に追加
③多様性について「男女間賃金格差」、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」を
有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目に追加
人的資本可視化指針で示されたことを踏まえ、
これらを積極的に開示していくことが期待されている。
具体的にどんなことを開示していけばよいのかということについては、
付録として示された「人的資本:開示事項・指標集」が拠り所となります。
これによると基本的に、開示推奨分野は6分野
(育成、従業員エンゲージメント、流動性、ダイバーシティ、健康・安全、労働慣行・コンプライアンス)
19項目となっています。
この6分野19項目について、
既に存在している国際開示基準(原則主義のフレームワーク)である
ISO30414・WEF・SASB・GRIに照らし合わせて
各企業が開示をしていくようにうながされています。
正直、これではどこから手をつけたらいいか、迷ってしまうだろうと感じられました。
先行企業の開示事例も数多く挙げられてますが、
各企業まちまちであまり参考にならない感じです。
推奨開示項目の8割はカバーできると見込めますので、
まずISO30414をベースに開示情報を整えていき
足りない部分は他の基準で補足していくという方向性が
やり易いのではないかと感じられます。
いずれにしろ、きちんと人を大切にする人本経営を実践していれば、
どんな角度からでも、社会的評価が得られる人的資本の情報開示ができることは確実ですから、
その道を揺るぎなく邁進していきましょう。
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