第941号 日本企業でISO30414初認証、その開示情報に思うこと
2022.5.23
日本企業でISO30414初認証、その開示情報に思うこと
国内企業で初めて国際的な人的資本情報の開示指針である
「ISO30414」の認証を取得した企業が誕生したと報じられています。
リンクアンドモチベーション、人的資本開示のISO取得
その開示情報はこちらで入手が可能です。
人事、労務、組織についてISOが定める規格に沿って、
人的資本情報の開示がなされているということが認証されたという意味です。
ISO30414は、水準を示したものではなく、認証されたので、
その会社が経営品質的に見本になる取り組みをしているということと
イコールではありません。
もちろん第1号認証事案が、今後の比較対象としてベンチマークされていくことは確実ですが、
開示情報をみていて気になる点がいくつかありました。挙げていきます。
1.倫理とコンプライアンス
「提起された苦情の種類と件数」については、
会社内に設置しているホットライン窓口に寄せられた
ハラスメントや職場環境に関する苦情件数を開示しています。
ということは窓口を経ずに会社に「パワハラ」だと訴えがあった事案については
カウントされていないのではないかと感じました。
「第三者に解決を委ねられた係争」については、
『労基署等外部の監査で指摘を受けた事項のうち、未解決の件数』と定義されて
開示されています。
これでは足りず労基署からの是正指導や是正勧告をどれだけ受けたかという数の開示がなければ、
コンプライアンスの状況把握としては不十分だと率直に感じました。
3.ダイバーシティ
「障害者」について、障がい者雇用率は2019年1.04%、2020年1.35%、2021年1.52%と開示されています。
そしてコメントには
「障がい者の採用を強化し、雇用数は増加しているものの、法定雇用率2.3%には達していません。
法人ごとの結果では法定雇用率を満たしている法人もありますが、
グループ全体として引き続き経営課題と捉え、採用を強化していきます。」
とありました。
人を大切にする経営を提唱している当方としては、これには愕然としました。
遥かに法定雇用率に及んでいないにもかかわらず、
平然と開示してしまうのだと感じたからです。
せめて直近の1年くらい法定雇用率を達成してから開示すべきではなかったのでしょうか。
この会社の障がい者に対する考えが推し量れるといえばそれまでですが、
これを見本にして後に続く企業が、法定雇用率を満たしていなくとも、
厚顔と開示してくるようなミスリード状態にならないでほしいと強く感じました。
これで、この会社は、いかにISO30414で認証されたとしても、
日本の人を大切にする経営を実践している優良企業を顕彰する
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の受賞はおろか、
最短でも5年間は応募すら出来ないという状態であるということを
つまびらかにしてしまったのです。
人的資本経営は、人本経営が旨とする弱者に優しい会社とは、
やはりそのスタンスが違うと感じざるを得なくなりました。
8.採用・退職・離職
「離職率」について、2019年12.8% 2020年 9.8% 2021年10.0%と開示されています。
人を大切にする経営を実践する会社800社をみてきた経験から、
これは明らかに高い(悪い)離職率です。
これについて同社は辞めやすい会社をつくっているとストーリー展開しています。
曰く「企業と個人の関係は、縛り縛られる“相互拘束関係”から、
選び選ばれる“相互選択関係”へと変化しています。
だからこそ、当社グループでは、終身雇用を前提とした年功序列型賃金・退職金制度といった
個人が「辞めにくい」制度ではなく、
企業と個人が選び合うことができるよう「辞めやすい」制度作りをした上で、
多様な人材の多様なワークモチベーションを束ねることにこだわっています」
のだそうです。
相互選択関係については全く同意しますが、
だからといって紋切り型で、伊那食品工業や未来工業において完全に機能させている
「年功序列」に悪者のレッテル張りして、
高い離職率が「辞めやすい」という制度にしているからということについては
全く共感できません。
無理な理由づけと率直に感じます。
障がい者法定雇用率が満たされていない、社員がかなりの率で辞めていることが明示されましたが、
ISO30414認証されたことでこの会社の株価は跳ね上がりました。
第1号認証のトライには敬意を表しますが、
やはり、人的資本経営の「あり方」や思惑、そして行く末に不安を覚えずにいられません。
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