第940号 日本版ISO30414で示された人的資本19の情報開示項目
2022.5.16
日本版ISO30414で示された人的資本19の情報開示項目
日経新聞の5月14日の一面で「人的資本」の情報開示へ 政府指針という見出しで、
いよいよ企業が、いかに人的資本経営を実践しているかということが問われる時代になってきたと
大々的に報じられていました。
最近の当通信をお読みいただいている方には、驚きはないのではないかと存じます。
記事によれば、政府は、企業に対して19の項目について、
人的資本の状況を開示するように求めるということで、
うち一部は2023年度にも有価証券報告書に記載することを義務付けるということです。
詳細は6月中に取りまとめるということですが、
記事で挙げられている19の項目は以下のとおりです。
人材育成 | 多様性 | 健康安全 | 労働慣行 |
---|---|---|---|
①リーダーシップ | ⑧多様性 | ⑪安全 | ⑭労働慣行 |
②育成 | ⑨非差別 | ⑫身体的健康 | ⑮児童・強制労働 |
③スキル | ⑩育児休業 | ⑬精神的健康 | ⑯賃金の公正性 |
④エンゲージメント | ⑰福利厚生 | ||
⑤採用 | ⑱組合との関係 | ||
⑥人材維持 | ⑲コンプライアンス | ||
⑦後継者計画 |
■ISO30414との対比
以前に紹介した人事・労務・組織の「人的資本経営」の国際基準として提示された
ISO30414と対比してみると、「生産性」指標がないということに気づきました。
ISO30414では、人的資本ROIを開示するように求めていましたが、これがありません。
また「コスト」指標もないようです。
この2点については、懸念を示していた事項でもあり、
このいわば日本版ISO30414であえて外しているという点は評価できると感じました。
もちろん今後公開される詳細の指標を吟味しないとなりませんが。
一方、ISO30414になく、日本版ISO30414で示されているのが「非差別」という項目です。
非正規社員の賃金格差などについての警鐘をならす目的かと考えましたが、
記事では「性別、人種、民族の割合」「期間中の差別事例の総件数」と示されていて
正直、あまりピンとこない項目です。
どのような意図があって、この項目が用意されているのか、
今後、深堀をしていく必要がありそうです。
また「児童・強制労働」という項目も、
平素、様々な企業の経営人事マネジメントのお手伝いをしていて、
ほとんど問題として生じるテーマではなく、
この項目についても首を傾げたくなりました。
それ以外の項目では、人を大切にする人本経営を真面目に展開している企業、組織なら、
大いに世間に示すことができるレベルの情報を開示していくことができると感じられます。
■目的が重要
問題は、人的資本経営の情報開示が、
企業が従業員について価値を生み出す「人的資本」と捉えて適切に投資しているかを
投資家が判断できるようにすることが目的と記事でされていることです。
ISO30414の解析の際にも、指摘したことですが、
ファイナンスの側面が強調されていき、
関わるステークホルダーとの関係の質を向上させる幸せ軸経営の延長線上に
人的資本経営が論じられないと、
結局、それは業績軸でのマネジメントに終わってしまうということです。
そうならないように、人を大切にする経営の大切さ、重要さをこれまでにも増して、
社会に訴えて啓発していきたいと心新たにしております。
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