第929号 人を大切にする会社の「ISO30414」情報開示基準Ⅱ

第929号 人を大切にする会社の「ISO30414」情報開示基準Ⅱ

人を大切にする会社の「ISO30414」情報開示基準Ⅱ

「人的資本経営」の国際基準として提示されたISO30414。
企業における人事・組織・労務に関する情報を開示するためのガイドラインとして
11項目58指標が最低限の開示情報とされています。

人を大切にする実践度の開示という観点から、
どうISO30414の各項目を開示していけばよいのか、
前週に続きチャレンジです。

◎=大企業・中小企業ともに対外開示を推奨される指標 〇=大企業が対外開示を推奨される指標

7.生産性(◎従業員1人当たりEBIT/売上/利益  ◎人的資本ROI)

EBITは「利息および、税金控除前の営業利益」のこと。
従業員1人あたりの売上高、EBIT額、経常利益額が生産性指標として、開示基準とされています。
これはそのまま算出して開示するよりないでしょう。

同業他社との比較や経年推移が評価対象になるものと考えられます。
またエンゲージメント度との相関なども注目していきたいところです。

そして、人的資本ROIですが、
人件費の売上から人件費以外のコストを除いた額に対する割合で、
人的資本コストが給与+諸手当とすると、

人的資本ROI=[売上-(全コスト-人的資本コスト)]÷(人的資本コスト)-1

という算式で求められます。

正直にいって、人的資本経営で最も危うさを感じる部分です。
単純にROIを高くするには、人件費を抑えるとそういう結果になってしまいます。
ROIは現時点での状況を評価する指標で、長期の利益を評価できません。

事業によっては短期的に利益を生み出せなくても、
長期的に大きな利益を生み出すものもあります。
毎年利益の10%を研究職の人件費に充て続けていることで知られている伊那食品工業は、
その未来投資があるから新規商品開発がはかられ
価格競争に巻き込まれないブルーオーシャンで持続可能性を高めています。

それが彼らがテーゼとしている年輪経営にとって生命線です。
この未来投資を減じればROIは高くなるわけです。
同社はあえて上場していませんから、ありえないことですが、
そういう体制の公開企業に対して、ROIをもっと高くしろと投資家が迫り、
未来投資を削らざるをえなくなったら、これはもう本末転倒です。
十分留意が必要です。

8.採用・異動・退職(〇採用にかかる平均日数 〇重要ポストが埋まるまでの日数 〇内部登用率
〇重要ポストの内部登用率 ◎離職率)

この項目はあまり日本の人事慣行に合わない切り口の指標が提示されていると感じます。
内部登用率は、きちんと人材育成できているかということを確認したいという意図でしょうか。

勤続年数が長い人本経営ならば問題のない数値が示せるでしょう。
離職率の開示はいくらでもどうぞです。

9.スキルと能力(◎人材開発・研修の総費用)

ひねりようのない指標です。人本経営は1人当たり年間教育費用5万円が目安です。
また就業時間中に社内で実施した教育分の総時間の人件費相当は
総費用に組入れてもよいのではないでしょうか。

10.後継者計画(◎〇なし)

後継者が内部から70~80%登用されていると
後継者への継承がうまくいっていると判断されるようです。

これも人本経営では全く問題がないかと感じます。
視点は違いますが、同業他社や地域で後継者不足に悩んでいる企業を救済して、
吸収合併をして人を大切にする経営を導入し事業承継をしていく事例が
人本経営では垣間見られます。
実績ある企業は、そんなデータも開示していきたいところです。

11.労働力(◎総従業員数 ◎総従業員数(非正規社員数) ◎フルタイム当量)

人本経営では正社員比率70%以上が、あるべき姿です。
また、増員出来ているかという点を確認したいとこところではないでしょうか。

年輪経営では、増収増益、増報酬、増員を目指していきます。
それが幸せを形にした企業の結果と考えているからです。
それが過去どう実現されてきているのか、この項目も健全性を示す指標になりそうです。

矢継ぎ早に人を大切にする会社にとってのISO30414について
情報開示について考察して参りました。

人本経営を極めている会社にとっては、
原則的に明確にその優良さが際立つ国際基準になってくることだろうことが検証できました。

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