第918号 成果主義、能力主義、そして、これからの評価制度は人本主義
2021.11.22
成果主義、能力主義、そして、これからの評価制度は人本主義
2件のパワハラ労災認定事件が立て続いたトヨタ自動車。
豊田章男社長が2010年より、伊那食品工業塚越寛さんの年輪経営哲学に感化され、
トヨタ自体の経営人事を変えつつある中で、
パワハラ問題が起きたことは残念でなりませんが、
この問題の根深さも同時に考えさせられるところです。
トヨタが今後、重視する人事労務施策
トヨタでは、今後、二度とパワハラ問題が起きないようにと対策を掲げました。
典型的なパワハラ対策がてんこ盛りの中で、注目すべき点がありました。
それは、以下の指摘があったことです。
『評価基準を見直し、今まで以上に「人間力」のある人材、
周囲へ好影響を与え信頼される力を持つ人を評価します。
加えて、役員、幹部職・基幹職を対象に、360度アンケートを導入いたしました』
企業へ人本経営の実践指導のサポートをしてきて13年が経ちました。
人を大切にする企業文化が根付き、
社員の幸福度が他社の見本になるほどに高められた会社があります。
この会社で数年前から、社長が交代し、後継者に代替わりしても、
今の優れた風土が引き継がれるようにしていきたいというご要望がございました。
社長は人事考課制度に関心をお持ちでした。
しかしながら、こと評価制度については、
800回近い「いい会社」のベンチマークを繰り返しても、
この制度が特長であるという法則性が見いだせないテーマとなっています。
それは当然で、制度よりも風土が決定的に「いい会社」づくりには重要だからです。
伊那食品工業や未来工業といったレジェンド企業では、
こだわった評価制度を実施しているわけではありません。
今なお、頑として年功序列の終身雇用を続けています。
世間の企業では、それを否定し
成果主義の色濃い評価制度の導入をしていくケースが散見されますが、
それが抜群に効果的であったという事例をみたことがありません。
むしろ、考課者に人事権が偏り過ぎて、
不平不満、不信の温床になっているケースも少なくありません。
このことが意味するところは、
年功序列の終身雇用が悪玉ではないということに他なりません。
年輪経営で健全健康な経営体をつくり、
結果としての利益が出続ける循環が実現できていれば、
人事考課制度としては、年功序列をベースにしていくことがふさわしいのです。
新しい人事評価制度導入のチャレンジ
そのことについて、前述の指導先の経営者にも伝え、ふまえていただいたうえで、
後継者が行き詰らないような人事考課制度を
つくりあげていきたいということになりました。
思案を重ね、熟慮した結果「人間力」を基軸にした考課制度であれば、
人本経営をより磨き上げることができるのではないかとご提案いたしました。
人事評価の基準は、「業績」「能力」「情意」の3要素に着目することが一般的です。
業績を重視すると成果主義型、能力を重視すると能力主義型といわれるようになります。
業績は技術力、能力は仕事力の現れと見て取ることができるでしょう。
もう一つの情意は、これまでの評価制度では、
無遅刻無欠勤で勤務態度が真面目だとか、
協調性があるといった項目が評価の対象となってきました。
言ってみれば、刺身のつま的な扱い、
ここにウェイトをおく制度は
ほとんど類型としてみることはなかったといってよいでしょう。
しかし、人本経営では違います。技術力も仕事力も大切ですが、
土台となる人間力があってこそ、それらが活かされると強く意識します。
とはいえ、人間力をどう評価していけばよいのかという問題が起きてきます。
これについて明確な答えをもちました。
人本経営では、人を大切にする経営理念を掲げ、
それを実現していくための日々の価値判断としての行動基準、信条などが、
いわゆるクレドといった形で、言語化され全社員の共通認識となっています。
クレドに沿った行動ができている人は、間違いなく人間力が高いという判断ができます。
そこで、情意考課にクレドを活用していくことにしたのです。
評価者は全員です。つまり360度、多面評価です。
この人間力の多面考課の結果が一定以上の水準にあれば、
人事考課者として登用するという仕組みをまず、制度の基礎に据えたのです。
今回、トヨタが評価制度の見直しとして掲げたこととの一致性に驚くとともに、
人を大切にする経営を志向するならば納得できる帰結とも感じられました。
指導先では、人間力を重視した人事評価制度を導入して2年が経とうとしています。
ここまでの結果は極めて良好で、
これまでの人事評価制度よりも確実に社員の幸福度増進に貢献出来ていると
自信を持ち始めています。
人間力重視、これを人本主義と命名し、
成果主義、能力主義に匹敵する人本主義評価制度として
世に普及していきたいという思いが今、芽生え始めています。
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