第887号 仏教も「関係の質」の重要性を説いていた
2021.4.5
仏教も「関係の質」の重要性を説いていた
弊社のクライアントは人を大切にする人本経営の実践をしている企業ばかりになりましたが、その浸透度が進んでいればいるほど、コロナ禍による経営への打撃は深刻化せず、また立ち直りも早い傾向にあるとこの1年で改めて感じさせられています。
人本経営は、社員の数だけ、仕事で関わる人との「関係の質」をよくしていくあり方ですから、社員の数だけ「結果の質」が伴い、その総和としての企業業績がよくなってくるのです。これは考えてみたら、ものすごいパワーです。
ひとりのカリスマが力を発揮しても、せいぜい平均的な社員の実力の2倍くらいのパフォーマンスが限界でしょう。他のメンバーが1の働きしかしていなければ、10人の組織では全体では11の成果にとどまります。しかし、全員が1.2倍の働きをしたら、全体では12の成果となり、この方が勝ります。
この状態が12か月(1年)続いたら、カリスマ組織は成果11×12で132、人本組織は成果12×12で144という業績になります。カリスマ組織よりも1か月分以上高いパフォーマンスを得ていることになります。
まあ、単純計算ですが、「社長ひとりが出来ることなどたかが知れている。全員の力を結集させることになにより注力する。」という話は、いい会社の経営者から本当によく聞かされています。
■仏教も説く「関係の質」の重要性
人間は完璧ではないから、人生を歩むと様々な困難や苦が押し寄せてきます。苦から逃げる術はなく、楽あれば苦ありの通り、逃げれば逃げるほど追いかけてくることから、仏教は四苦八苦を説きました。
四苦とは、生・老・病・死です。老いる、病に伏せる、死ぬことは、確かに苦痛を感じます。さらに生きていくことは自分の思い通りにならないことの連続の体感であるから「生」そのものを苦であると達観しています。
さらに次の4つが加わり、八苦となります。
愛別離苦(あいべつりく)・怨憎会苦(おんぞうえく)・求不得苦(ぐふとくく)・五蘊盛苦(ごうんじょうく)。
愛する人との別れで遭遇する苦しみが愛別離苦。うらみ憎む人に出会う苦しみが怨憎会苦。求めているものが得られない苦しみが求不得苦。ここまでは、そう言われれば確かにその通りだと考えさせられます。最後の五蘊盛苦とは、おれがおれがの苦しみ模様を指していると理解できます。
人間は、眼(げん)・耳(に)・鼻(び)・舌(ぜつ)・身(しん)・意(い)、つまり五感にいわゆる第六感を加えた認識作用により、起きる物事や出来事を判断しています。第六感は、直観・霊感・インスピレーションといわれるもので、五感同様に主観の領域です。
しかし、この主観こそが苦しみのもとと仏教は諭しているのです。事実は一つ、解釈は無限ですから、人と価値観や意見が常に一致することはありえません。ゆえに自分の正しさへの固執は苦しみに苛まれるということで五蘊盛苦です。
八苦は他者との関係から生じるということがわかります。仏教でも、関係の質が幸不幸、人生の良し悪しを左右すると説いていることは、とても重く感じられます。
違いは違いであって間違いではありません。人は違っていて当たり前です。その差異を少なくするよう歩み寄ることこそが苦を和らげるのです。自分の思い通りにならない「苦」は、自己がつくり出した幻影なのです。苦しみの原因は苦しみそのものでなく、幻影という認識作用によって起きているのです。
眼・耳・鼻・舌・身・意の六根を清浄に保ち、認識作用を正すことが苦の源を滅する、と仏教は教えています。清浄とは煩悩に縛られている状態から解放され、迷いの世界、輪廻などの苦を脱して自由の境地に到達することで、仏教ではそれを解脱としているのです。
884号でも指摘しましたが、「俺が俺がの我を捨てて、おかげおかげのげで生きる」の「げ」は、解放、解脱の「解」であるということの納得性がさらに増して、身に迫ってくるようです。
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