第878号 2021最新人本経営概論

第878号 2021最新人本経営概論

2021最新人本経営概論


人を大切にする経営について、再び社会の関心が高まってきていると感じます。人本経営も進化しています。改めて人本経営について最新考察をして参りたいと存じます。

■人本経営とは

人本経営(じんぽんけいえい)とは、企業に関わる5人の「人」の幸せを叶えることを目的とする経営のことをいいます。5人とは次の通りで、この優先順位で幸福を増進していくことを日々の経営課題として行動し、その実現により5人から支持を得て好業績という結果を持続的につくりだしていく経営のあり方です。

 1.社員とその家族
 2.社外社員とその家族
 3.お客様
 4.地域住民
 5.株主

ダニエル・キム教授は組織の成功循環モデルを説きました。企業業績といった結果は、その組織における関係の質の良好さによって決定づけられていると結論づけました。

関係の質→思考の質→行動の質→結果の質

この説を知った時、「人本経営は5人に対する相互の関係の質を高め続けていく経営に他ならない」と腑に落ちました。

■社員とその家族

まず、「社員とその家族」ですが、人本経営では「社員第一主義」を標榜します。この意味するところは、仕事の都合よりも家庭の事情を優先していい企業文化を形成するということです。幸せ軸が人本経営です。その幸せの源泉は、なんといっても家族関係に尽きます。

例えば親が要介護状態になった時、まともな人間であれば、気になって仕事に手が付けられない状態になることでしょう。そんな時、今は仕事のことは残ったメンバーに任せて、親御さんをしっかり介護できる体制をつくれるように会社を休んで構わないと家庭に送り返したり、必要なサポートをしたりするのが人本経営です。

あるいは、子どもの一生に一度の入学式や学芸会で主役を務めるなどの晴れ舞台がある時、家族とその時間を共有することが当然と休暇が与えられるのが人本経営です。

社員である前に、父親であり母親です。わが子の成長を感じる時ほど幸福感を感じることはないはずです。その時間が仕事優先で阻まれてしまっては、何のために働いているのかという問いへの答えが「生活のため」になってしまいます。心置きなく、子どもの成長を見届けることが出来た場合は、家族の絆を改めて感じ、人生を営んでいくことへの喜びをその社員は噛みしめて幸福感を増して職場に戻ってくるはずです。きちんと家族のことに思いを馳せ、大切にしてくれる会社に対して、心から「いい会社」に勤めることが出来てよかったと思考の質が高められていくことは容易に想像できます。

そして、さらにいい仕事をして会社を盛り立てよう、あるいは、次に社内の誰かが家庭の事情で職場を離れなくてはならなくなったとき、その人の分をサポートしようと恩送りの精神が芽生え、行動の質が高められていくのは自然の帰結でしょう。実際、人本経営を実践している経営者からは、例えば子供の運動会に休暇を取って参加し、あくる日出社してきたときの社員のモチベーションがとても高いという声をよく聞きます。

■社外社員とその家族

次に「社外社員とその家族」です。取引先、仕入先、関係会社など、商品やサービスを会社が提供する際には自社以外の企業や法人等で働く人々との連携は欠かせません。この方々にもそれぞれ家族があります。ですから、手前勝手な取引、例えば無茶な短納期を迫ったり、相手の利益が出そうもない発注をしては、先方の社員が長時間労働を強いられたり、よくない精神状態で働くことでその社外社員の家族仲に影響が及んでしまうかもしれません。そこで、人本経営では、適切な納期、相手も十分に収益が確保できる発注、さらには現金決済でなるだけ資金繰りが楽になるよう配慮したお付き合いをしようと心がけていきます。

そのように取引先、仕入先、関係会社等の社外社員との関係の質を高めていけば、「あの会社との取引は本当に心地よい」「こちらも丁寧な対応を心がけよう」「パートナーとして扱ってくれることに感謝して精一杯の仕事をしよう」と社外社員の皆さんの思考の質、行動の質が高められていくこともまた自明でしょう。

こうして、自社内の社員と社外社員がやりがいをもって仕事に打ち込んでくれたら、その成果物は普通の会社にはない魅力が備わってくるに違いありません。それが、他社にはない差別化された商品やサービスになるのです。(以下、次号に続く)

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