第822号 今こそ問われる人本経営者の覚悟

第822号 今こそ問われる人本経営者の覚悟

今こそ問われる人本経営者の覚悟

新型肺炎の影響により、一気に自粛ムードが広がっています。専門家でも意見が分かれるほど見通しが立たない状況で主催者側が早めのリスクヘッジをしていくことは理解できるところです。しかし、マスコミの報道も、煽り過ぎだと感じることが多々あります。自粛が行き過ぎると当然、社会全体の経済活動にもろに影響が及んできます。実際に打撃を受けている企業は多いようです。ここでまた、経営者がどういう行動をしていくかで、真価が問われる局面になってきました。以前にも紹介した松下幸之助のエピソード、重要なので改めて書き留めておきます。

■世界恐慌時、松下幸之助がとった行動

世界恐慌の当時、産業界は大きな打撃を受け、株価は暴落、企業の倒産が全国に広がっていきました。電機業界でも数多くのメーカーが倒産。松下電器も売上が半分以下に急減、たちまち在庫が増え、12月には倉庫がいっぱいで製品の置き場もなくなるという創業以来の深刻な事態に直面しました。2人の幹部が対応策をもって幸之助のもとを訪ねてきました。

「この危機を乗り切るためには従業員を半減するしかありません。」

報告を聞き終えた幸之助は、しばらく沈思し、そして語りました。

「なあ、わしはこう思う。松下が今日終わるんであれば、君らのいうてくれるとおり従業員を解雇してもいい。けれども、わしは将来松下電器をさらに大きくしようと思っている。だから、1人も解雇したらあかん。会社の都合で人を採用したり、解雇したりでは、働く者も不安を覚えるだろう。大を成そうとする松下としてはそれは耐えられないことだ。みんなの力で立て直そう。」

そして具体的な方法を示しました。それは、生産を直ちに半減して、工場は半日勤務にする。しかし従業員の給料は全額を支給。その代わり、全員、休日を返上し、在庫品の販売に全力をあげてもらうというものでした。この決断は従業員を奮い立たせ、社内に垂れこめていた暗雲は瞬時にして吹き飛びました。

「さすがはおやじさんだ。みんなで力を合わせてがんばろう。」

それから2カ月、全員の懸命な努力が実を結び、在庫は一掃されて倉庫は空になったばかりでなく、半ドンをやめてまた全力をあげて生産に努力しなければならないほどになり、世界恐慌という未曽有の危機に、たった一人もリストラすることなく乗り越えていったのです。

■リーマンショック時にもあった人本経営のミラクル

2008年に起きたリーマンショックで機械注文の8割がキャンセルになった工作機械メーカー、西島株式会社。その時、西島篤師社長は全社員にこう言いました。「厳しい状況下になっているが、私は会社を守るし、みんなの雇用を守る。ただ業績が回復するまでは、給料をカットさせてもらいたい。」と宣言しました。日頃の人を大切にする経営の浸透度が抜群の同社では、一人の反対者もいなかったといいます。そして、仕事がなくなり時間がある今だからこそ出来ることをしようと働きかけをしていきました。

製造現場には機械の点検や新技術の開発を進めよう、営業には相手先のキーマンの社員は経費削減で出張を控えて社内にいるはずだから直接会いに出かけなさい、3倍動こう、と指示を出したのです。不況はみんなに与えられた条件、今までのやり方を見直し、発想の転換や意識改革をするときだと考え、危機を脱していくための行動を率先垂範していったのです。その結果、新興国での市場開拓の成功、仕事のある企業へと営業を転換し、新規顧客の創造や農業機器の新製品開発などのイノベーションが実現し、見事にV字回復を果たしています。

世界恐慌やリーマンショックの頃と現在、もちろんさまざまな点で環境は同じではありません。ですが、この先どうなってしまうのかという先行き不透明な不安感を抱いていたであろうことは松下幸之助も西島社長も胸中察するに余りあります。

先人たちに倣い、今ここで社員たちを鼓舞し、そして自らの行動で勇気と安心感を与え、会社を一枚岩にしていくことが出来るのかどうか、人本経営者としての試金石として試される局面がやってきています。この先、最悪なパンデミックという状況になったとしても、それは一過性です。今こそ、遠くをはかって経営の舵取りをしていきましょう。

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