第749号 社長と社員の間には川が流れている。問題はその川幅。
2018.9.3
社長と社員の間には川が流れている。問題はその川幅。
ついに体操界でもハラスメント事案が勃発しました。
今回の事案では、日大のアメフト部やアマボクシング界の出来事に比べると悪質性は感じられません。暴力をふるったコーチはこのご時世ですから起用していくことは難しく、選手本人へは環境を変えるように促しているからです。
しかし、メディアでの論調は、上層部への批判が相次いでいます。
当事者が記者会見をして、切々と思いを語る姿に、さぞ辛かったのだろうという共感が起きているからでしょう。
ここにハラスメント事案の難しさがあります。
一般的にハラスメントは、「他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えること」と定義されていますから、やっかいです。相手がそう感じるかどうかが基準になるのです。
今回の体操界の事案で感じることは、当通信では幾度となく取り上げてきましたが、幸せ軸で生きていくことがベースにある平成世代には、その者に良かれと思っても、自分の言うことに間違いはないのだから従いなさいという支配型ボスマネジメントは、もはや通用しなくなったのだろうということです。
■距離感を近づける努力が重要
経営者や経営幹部、あるいは部下のいるリーダーは、これからどのようにマネジメントをしていくことが望ましいのでしょうか。何も腫れ物に触るように接する必要はありません。日頃の関係性をよくして相互理解度を高めていくことに尽きるのです。
大阪の辰巳工業株式会社(金属加工業)の経営者、辰巳施智子さんは「どうしても社長と社員の間には川が流れている。問題は川幅と思う。うちの会社は、小川でせせらぎが聞こえるような状態。だから私もあっち岸にすぐ行けるし、社員もこっち岸にすぐ来ることができる。」と語られていました。社員との距離感が近いということを例えたのですが、実にうまい表現だと感心しました。
これがいわゆるブラック企業だと、その川幅は揚子江のような広さで、向こう岸が見えない状態になってしまう訳です。これではトラブルが頻発してしまうのも頷けます。
川幅を狭くしていくこと、それが人を大切にするということです。立場で思考するのではなく、人として尊重していくことが出来るかどうかです。
■社員への思いと取り組みを掲げる
そうは良くない職場環境にもかかわらず、額に汗して今日も働いてくれる社員がいるからこそ、この酷暑のなか営業に出かけてくれる社員がいるからこそ、会社には収益が生まれ、経営者・経営幹部は報酬を得て生活していくことが出来るのです。この厳粛な事実を忘れてはいないでしょうか。その事実を踏まえるならば、社員に対して感謝の言葉が出てくるのが自然ですし、少しでも働きやすくなるように出来ることをしていこうとするはずです。
前述の経営者は、年度初めに『社員への思いと取り組み』と題して、社員との距離を縮めていくための実施項目を一覧表にしています。そこには、「現場巡回し社員へ声掛け対話する」といった30の項目が掲げられていて、それらをしていくことで安心感の醸成・向上心の増進・仲間意識の向上・職場や会社に誇りをもてる、といった波及効果があると考えていると説明されています。
こうした社員を大切にする努力をしていれば、パワハラが発生する余地はなくなっていくこと明白でしょう。役職は偉いからつくのではなく、周りを支援できる経験値が一定基準に達したからつくのです。
ハラスメントと無縁の職場を人本経営で実現していきましょう。
【参考】こちらも併せてお読みください→ 「人本経営企業のベンチマーク(24)辰巳工業編」
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