第745号 島根ツアー2018での学び3 さんびる編

第745号 島根ツアー2018での学び3 さんびる編

島根ツアー2018での学び3 さんびる編

■人本経営で同業他社を救う

いい会社をベンチマークしていて、最近よく聞く話があります。それは、同業または地域で経営が厳しくなってしまった会社を再生するためにM&Aをすることにした、という話です。今回うかがったさんびる社でも、田中正彦社長から「高知県でビル環境衛生管理をしている会社を再建している」というお話が冒頭にありました。

人本経営を実践している会社が行う事業承継の目的は、拡大ではなくその会社に自社で培った人本経営を注入して、文字通り傾いた会社を再生させるために行われていきます。ですから、リストラということも起こり得ません。この高知の会社でも、まさしく“さんびるイズム”で、いい会社へ変化してきているといいます。それまでの経営者はほとんど現場に顔を出すこともなく、社員との距離感はとても離れていましたが、田中社長はその社員さんたちと膝を交えながら対話を重ねていったそうです。それまで社長とはろくに対話もしてこなかった彼らは、大変な驚きとともに自分たちの進む方向に自信を持ち始めていきました。そうして現場が変わると、お客さんも変わってくるという好循環が生まれる、と田中社長はいいます。事業を引き継いだ時、数千万円の赤字だったその会社は、今年ついに債務超過がなくなるところまで盛り返してきたとのことです。

■見えないものへの尊崇の念

のっけから田中社長の人本経営者としての相変わらずの手腕の凄さに圧倒されてしまいましたが、続けてそうした「人が幸せになるための極意」を語ってくれました。

土に種をまくと、芽が出て、茎・葉が育ち、やがて木になっていきます。そして、木という見えるものに人々の注目が集まっていく訳ですが、「大きな木には必ず、大きな根っこがあることに気づく必要がある」と指摘されておられました。

「見えるものに等しい、見えないものがある。大きな見えないものをつくる意識が大変重要で、この見えないものが“器”ということ。この器を大きくすることが経営者としての使命である。」とおっしゃるのです。

根っこの下には何があるか――ずっと掘り下げていくとマグマがあるとわかります。つまりは、生きとし生けるものの原理原則といって差し支えのない根源的なものです。「命をいただいた人間として、このマグマを意識し、根底にある大いなる力に生かされているのだと命を燃やして頑張っていくことが大切で、そこにはとてもこだわっている。」とも語られていました。

宇宙の法則という原則に沿った生き方を徹底されていることで、今の田中社長があるのだということが、今回はっきりと認識できる視察となりました。やはり、ここが本当に大切なのです。

■人は環境で育つ

田中社長は「器は、会社経営では“環境”と同義である」といいます。そして「環境はつくるもので、それができると社員が何かに向けて走り出すようになる」と指摘されておられました。例えば、心を涵養する場として朝礼で対話を重ねていくことも人的環境整備のひとつということです。そして、環境整備とは、環境を整えて備えることに他ならないので、形から入って心に至る、つまり形をつくって心を育てることでよい、ということなのです。

ただし、留意すべきは「トップ・リーダーである経営者己自身が、自ら実践しないと環境は生まれない、ということを肝に銘じておくこと」と強調されておられました。

「一生ここで働きたいという会社になってほしいのなら、上っ面だけでなく、社員一人ひとりの目に見えない心を育てることに尽きる。そのためには哲学が大事である。」と語られ、ご自身は「敬天愛人」を信条に据えて行動しているということでした。人は、良いことも悪いことも繰り返せば上手になるから、正しい道を進む仕組みが必要、と最後におっしゃっていたのが印象に残りました。本当に素晴らしい時間となりました。

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