第691号 今一度問う 何のための働き方改革か

第691号 今一度問う 何のための働き方改革か

今一度問う 何のための働き方改革か

いよいよ待ったなしになってきた感のある働き方改革。何のための働き方改革か。

この問いに明確な答えを出して改革に進んでいかなければ、成功はおぼつかないことは明らかです。

働き方改革の目的は、人手不足が常態化し、さらに深刻化していく現在の日本社会において、適正な労働力をこれからも保持し続け、安定的な経営を実現していくために行われるものです。

これ以外の理由で、殊更に働き方改革を叫ぶ将来的なリスクはないといっても過言ではないでしょう。

わが国の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は1995年頃にピークとなり、当時は8700万人も存在していました。これが未曽有の少子高齢化社会が津波のように訪れていることで、現時点では1200万人減の7500万人になっています。そして、現状のままで推移するとなると、今後減少の一途を辿り、2050年代には5000万人を割り込むと予想されています。

戦後、高度成長を支えてきたのは、いうまでもなく生産年齢人口が右肩上がりで増加していたことが大きな要因です。労働者であり消費者である人口層が増加し続ける環境があったのですから、企業経営には好循環を生み出す前提がしっかりと存在していたのです。

それが失われたのです。

バブルが弾け、2000年前後に「失われた10年」という言葉が流行りました。次の10年後にも「失われた20年」と言葉にした評論家がいました。まもなくバブル崩壊後30年になりますが、さすがに「失われた30年」と声にする輩は出てこないことでしょう。

「失われた」のではなく、「新しい現実が出現している」というのが実相だからです。

新しい現実を意識したら、新しい生き方が必要になるのは当然です。企業経営でも新しい現実を踏まえて、新しい企業経営が求められてきますし、それに応えられた企業がこの先、持続する可能性を高めていきます。

■生き残るのではなく、生まれ変わる

今の時代をこう称したのは、マーケッターの神田昌典さんです。さすがとしか言いようがない、今を端的に表現した名言と感心させられます。

いったん、これまでの常識を断ち切ることからスタートしていきましょう。

労働者、消費者が増え続けるという前提が消え去り、ものすごい勢いで減り続けるということが今、そして近未来の大前提です。

再び本題へ戻ります。

何のために働き方改革を行うのか。

それは、新しく出現した現実社会においても、世の中に必要とされ、役に立つ存在であり続ける企業体として、関わるステークホルダーに幸福をもたらすためにほかなりません。

最大多数の最大幸福を目指し、拡大志向を重視した高度成長時代、TVのコマーシャルでは「大きいことはいいことだ」と流布されていました。

それがもはや現代に通じないことは、多くの大企業が窮地に陥っている事実をみれば明らかでしょう。

そうではなく、規模は小さくて成長度は遅くとも、確実に安定的に木の年輪のごとく発展していく経営のあり方が、新しく出現した現実では極めて有効となりました。

社員がやめない会社をつくることが、人手不足常態化という新しい現実では、まず実現すべき目標といえるでしょう。人が計画通りに採用できなくなったとしても、離職率が低く安定成長を志しているならば、経営は盤石です。

そこで働いていて幸せを実感しているから、社員は辞めなくなります。一人一人の社員の幸せ度が醸し出すのが、その会社の企業風土です。それは、その価値観に引きつけられる求職者を呼んでいきます。結果として新規採用にも困らなくなり、さらに企業経営の健全さを増していきます。

人本経営に成功している企業が皆、その健全さを手に入れています。つまりは人本経営の実践、是即ち働き方改革の成功となるのです。こうして生まれ変わった企業が一燈照隅として社会のホタルになっていきます。そして、たくさんのホタルで社会があふれたとき、萬燈照国となっていくのです。

今、そのプロセスの真っただ中にいるということは、何と幸せなことなのかと改めて感じ入る今日この頃です。

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