第682号 ヤマト運輸の決断 「社員第一主義」経営へ反転
2017.4.24
ヤマト運輸の決断 「社員第一主義」経営へ反転
先の大戦や明治維新に匹敵する社会的大変化期を迎えているわが国。この大変革はほぼ70年周期で訪れているということをこれまでもお伝えしてきました。いま起きている大変革は、戦争や社会革命のような突発的な出来事が発生して引き起こされているのではありません。人口減少、少子高齢化という長期の周波で訪れている社会動態の変化によって、あらゆる産業に影響が及び始めているのです。まるで津波のように変化の波が押し寄せてきています。人口減少という現象の中で最も経済界に打撃を与えているのが、15歳から64歳までの生産年齢人口の減少です。総務省統計局『国勢調査報告』によれば、2000年以降わずか15年で1000万人も日本国から消失しています。そしてこれからも20年近くは減少トレンドの波は襲い続けます。労働者であり消費者である社会の活力を担う国民の層を失っていく訳ですから、その影響は甚大です。
物流という経済の最先端で事業活動をしているヤマト運輸で、規模の拡大を求める売上至上主義経営が限界に達したというレポートを675号でいたしました。新年度に入り、ヤマト運輸では「働き方改革」の基本骨子を機関決定したと発表しました。その内容は、これまでの企業経営のあり方を根幹から見直す衝撃的な内容となっています。
■ヤマト運輸の「働き方改革」の基本骨子
『当社の「働き方改革」は労働環境の改善、整備はもちろんのこと、デリバリー事業全体の事業モデルをこれからの時代にあわせて設計し直し、改革していくことと位置付けます。その基本骨子は、以下の5つです。』と前置きがされて、以下に取り組むとしています。
①労務管理の改善と徹底
社員が労働時間を正確に申告、管理できる環境を整えます。
②ワークライフバランスの推進
社員がしっかりと休息を取れるよう、休憩時間中の携帯電話の転送などやインターバル制度の導入、また、保育所等の設置や在宅勤務制度の導入を検討していきます。
③サービスレベルの変更(過剰サービス見直し)
社員の長時間労働の一因になっていた「20-21時」を「19-21時」の2時間枠に、また、社員が昼休憩をしっかりと取れるよう「12-14時」の枠を廃止し、これまでの6区分から5区分に変更するとともに、4月中に再配達受付の締め切り時間を20時から19時に1時間繰り上げます。
④宅急便総量のコントロール(大口荷物量の抑制)
大口のお客さま、低単価のお客さまに対し、ご依頼いただく荷物量の抑制をお願いすることにします。
⑤宅急便の基本運賃の改定
人口減少による労働力不足が深刻化する中、外形標準課税の増税、社会保険料の適用範囲拡大といったコスト構造の変化に対応しながら社員への処遇を充実させることはもちろん、新たな戦力の採用を強化していく必要があります。また、再配達を削減するためのIT基盤やクロネコメンバーズ特典の拡充、スピーディーなオープン型宅配ロッカーの設置拡大などに投資するため、宅急便の基本運賃を27年ぶりに値上げすることを決定しました。
①の方針を受けて、18日にはサービス残業が生じていたとして、過去2年間の未払い金190億円を支払うと発表しています。対象者はグループ全体で約4万7000人に上るということです。
過剰サービスを見直し、大口顧客に対して荷物量の抑制を要請し、そして値上げをすると宣言しているのです。いたれりつくせりのサービス提供、大口顧客の優遇、安売りといったこれまでの企業経営で業績を高めるために常識とされてきた経営手法を全否定してきたのです。こうした取り組みの目的についてヤマト運輸はこう説明しています。
『私たちはお客さまの満足を高めるための便利を、これからも提供し続けます。また、社会の満足度を高めるために、パートナーや業界の環境を改善していきます。そうすることで事業を持続的に発展させ、株主の満足を高めていきたいと考えています。そのためには、「社員がイキイキと働ける職場を作り直し、社員の満足を高めていくこと」が最優先事項であると考えています。』
つまり、ヤマト運輸は今後、社員第一主義経営を実践していくと明確に宣言したという訳です。業績軸の流れではこのままいくと滝に吸い込まれていくので、反転して幸せ軸に舵をきったという形容がぴったりくる感じではないでしょうか。人本主義時代の到来がまた現実化してきました。
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