第834号 未曾有のコロナ災禍下スペシャル企画 日本の針路Ⅳ 兵站の重要性
2020.4.28
未曾有のコロナ災禍下スペシャル企画 日本の針路Ⅳ 兵站の重要性
(前号より続く)
■敗因③ 兵站に対する無配慮(無理な拡大路線による破綻)
特に陸軍の失態に顕著ですが、兵站に対する配慮がわが国は驚くほど杜撰であり、これも敗戦の要因の一つとみなされています。
兵站とは、作戦に必要な物資や人員の移動や支援を行うことです。考えれば当たり前のことですが、最前線で戦っている部隊に、十分な食料や兵器の補充、あるいは要員の交代が行われて戦力は維持されていきます。
かのナポレオンも「作戦は兵站に依存する」といったとされています。陸軍は緒戦の成功に味を占め、最前線をどんどん拡大していきました。それは勢いに任せた無理な膨張といっても差し支えないものでした。理念としたアジアの解放という目的であれば、そんなに戦線を伸ばす必要性がないのは明らかです。石油資源のないわが国は、インドネシアの油田を確保するために南方へ進出していきました。これに成功した時点で守りを固めていき、しっかりと兵站を施すことが正解でした。
しかし、軍部は暴走し、ついにオーストラリアの目と鼻の先に位置するガダルカナル島にまで最前線が及び、ここで惨劇が引き起こされます。いったん同島を日本軍は占拠したものの、さすがに連合国も庭先まで戦火が迫ってきたので本腰を入れるモチベーションのスイッチが入ってしまったことでしょう。とうとう一大反撃が始まり奪還されてしまいます。これを再奪還しようと軍隊を逐次投入していきますが、頑強に抵抗され、多くの部隊は敗走し、島へ取り残される事態となりました。はるか遠い島へ、物資の補給はままならず、兵士たちは飢えに苦しみ、やがて命を落とす者が続出していきました。それでもまだ戦争の序盤でしたから、なんとか救出されることになりましたが、生き残って回収された兵士たちはみなやせ細り、あばら骨が浮き上がっていたということです。
そして、この時の戦いで、優秀だった歴戦のゼロ戦搭乗員を多数失ったことでさらに戦力がダウンしていきます。彼らが駐在していたラバウルからガダルカナル島は1000キロも離れており、一日がかりで往復を余儀なくされ、消耗していったのです。
その後、戦況はさらに悪化していき、日本軍は後退を余儀なくされる羽目になっていきます。米軍は、南方上の島々の拠点を一つずつ潰していく島嶼戦をしかけ北上してきました。日本軍は戦いに敗れ、玉砕という形で次々に島を失っていきました。徹底抗戦し、米海兵隊により大きな被害を与えた硫黄島の戦いは、映画になるほどの激戦が行われました。その陣頭指揮をとった栗林忠道中将の辞世の句として残された「矢弾(やだま)尽きて散るぞ悲しき」という文言は敗因を端的に表しています。補給さえ十分にあれば、決して負けなかったという無念さが痛いほどに伝わり、言葉を失います。生き残った残存兵や、無傷でも放置された他の太平洋の島々の部隊に補給が届くはずもなく、飢えとマラリアなどの病気で亡くなる兵士が続出していきました。
大東亜戦争での軍人・軍属の戦死者約140万人のうち、実に60パーセントが餓死者だといわれています。戦争に行って餓死してしまうなど、これほど尊厳のないことはないと感じます。兵站を考慮しない無計画な戦いは無惨な死と敗北をもたらすのです。
⇒ 現況で考えると…
緊急事態宣言が発出され、多くの地域で首長による号令がかけられ、営業自粛を強要されています。現在の状況で考えるならば、兵站は日々の売上であり、それを止めざるを得ない場合には補償が不可欠になります。これまでの蓄えが尽きたとき、ガダルカナル島で起きた悲劇がまた再び現世で起きかねないという事態が、今、発生しようとしているのです。さしずめ現代のガダルカナル島は飲食店などの店舗といえるでしょう。一刻の猶予もなくなってきている状況が日々伝わってきます。戦う前に餓死してしまうのでは洒落にならないのです。コロナウイルスの犠牲者よりも自粛による犠牲者が増えては、何のための自粛なのかと意味が不明になります。ここは政治決断が不可欠です。先の大戦の教訓に学び、ぜひとも有効な後方支援、兵站に対する配慮を十分に実施してほしいと切に願うばかりです。
(以下次号に続く)
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