第810号 トヨタ、人本大失墜
2019.11.25
トヨタ、人本大失墜
正直、わが目を疑いました。
先週19日の新聞発表で「トヨタ社員、労災認定 パワハラで17年に自殺」という記事が目に飛び込んできたからです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52336510Z11C19A1CE0000/
まさか、トヨタで…。以下は遺族側の代理人弁護士による事件の概要です。
『男性は東京大大学院の修士課程を修了後、2015年4月に入社し、2016年3月から本社(同市)で車両設計を担当する部署に配属された。その後、直属の上司から日常的に「バカ、アホ」などと叱責され、「死んだ方がいい」と言われたこともあったという。男性は適応障害を発症し、同年7月から3カ月間休職。この上司とは別のグループに復職したが、職場の席は上司と同じフロアだった。周囲に「(上司が)廊下でぶつかるようなしぐさをしてくる」と話し、手が震えたり、簡単なミスが増えるなどして、「死んで楽になりたい」などと漏らしていた。男性は復職から約1年後の2017年10月30日、社員寮の自室で自殺したとされる。』
■トヨタ回顧
2012年の春、伊那食品工業を視察した際に、トヨタが変わり始めているらしいということを塚越寛会長からお聞きしました。塚越会長は、2010年10月に幹部3000人が集まるオールトヨタTQM大会でご講演をされ、それ以降、多くの経営幹部の方々とも交流し、塚越会長が50年以上にわたり「いい会社をつくりましょう」と社是を掲げて実践してきた人を大切にする経営に、トヨタが相当に啓発されてきているということでした。実際、年輪経営や持続的成長、成長への種まきを怠らないなど、塚越会長が大切にしてきた経営哲学を豊田社長が2014年の決算報告の記者会見の場で口にしているのを知り、これは相当に傾倒していると感じました。
その後、取引先へのコストダウンを要請しない取り組みを実践したり、2015年の年頭には月刊『松下幸之助塾』で塚越氏との対談記事が組まれ、『本家本元の塚越会長の前で言うのも恐縮ですが(笑)、会社に関わった人々が「いい人生だった」と思えることも大事だと思っています。』と語り、さらに人本的な取り組みが前進していくのかと期待していました。
しかし、取引先へのコストダウンは3年後に再開されていきました。記者会見でも、2017年あたりから年輪経営よりも「100年に1度の大変革」というキーワードが多くなっていき、トーンが変わり始めたなということを感じました。
当通信では、都度、豊田章男社長の動向を注視し、今年も以下のようなレポートをしてきました。
・2019.3.18 第776号 「トヨタの正念場」
2019年の春闘を振り返り、『トップが抱いている危機感が相当であることは十分伝わってきたが、幸せ軸に沿った経営が展開されていくというワクワク感がほとんど得られない。今後も真のリーディングカンパニーで居続けられるかは、トヨタと関われば幸せになれるとステークホルダーが心を寄せたくなる存在になれるかにかかっている。エールを送りたい。』とレポート。
・2019.5.27 第785号 「人本の道を逸脱し始めた?!豊田章男社長」
人本経営の象徴といっていい「終身雇用」を放棄する発言を豊田社長が口にし、実際にそう指向していることをうけて、『残念ながら、豊田社長は人本経営のカテゴリーから逸脱していってしまったと感じざるを得ない。少なくとも、ぶれてしまったことは確かだろう。失望した。』とレポート。
■豊田社長に望みたいこと
冒頭に戻り、トヨタ社員の自殺事件が起きたのは2017年ですから最近です。それが残念でならないのです。塚越経営哲学を学び始めて7年も経ち、各職場にも人本的なあり方が浸透していると思いきや、この実態となったからです。この手の事件は尾ひれがつき、ことの真相や事実についてはこれからいろいろと報じられてくるかもしれませんが、おひざ元の豊田の労働基準監督署が自殺で労災認定したという事実は重すぎます。残念ですが、トヨタが人本経営を世に広めていくきっかけになりそうだとした当通信の見解は、当てが外れたようです。お詫びして訂正いたします。しかし、最後に豊田社長にお願いしたい。『トヨタと付き合えば幸せになれる、そう感じられるように努力していきたい』と述べていたのなら、今回の事件について広報ではなく、あなた自身の口から、貴重な命を落とされたわが社員に対して、そして、残された社員に対して、思いを語ってほしいのです。それだけは、最低限してほしいと切に望みます。
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