第1060号 塚越寛さん、伝記本出る その五 完結編

第1060号 塚越寛さん、伝記本出る その五 完結編

「評伝 伊那食品工業株式会社 塚越寛

急成長をよしとするマスコミへの批判

「毎年少しずつ確実に成長するということは、逆に非常に難しく、すべてにわたってバランスの取れた経営力を必要とします」「むしろ時流に乗ったわずか2~3年の急成長の方が易しいわけです」

「マスコミは、急成長したケースばかりを取り上げ、話題にし称賛しますが、長期にわたる安定成長こそ、称賛されていいというのが私の持論です」

<小林コメント>

急成長させることは持続よりはるかに易しい、塚越寛さんの言葉だけあって重みが違います。小生も四半世紀に及ぶ起業家としてこれまでのビジネス人生を振り返ると本当にその通りだと実感させられます。自社が儲かる事業は閃くと割と簡単にできます。しかし、世のため人のためになり自社も持続していく事業を継続していくことは心底入れ込んで忍耐強く実践していかないと実現できません。業績軸でなく幸せ軸を大切に訴えるメディアやシンクタンクにどうかアンテナを立ててください。

「あり方」がすべて

「儲けたいからやるという人がいっぱいいる。それは間違いではないが、儲けるよりむしろ世の中のこれがまずいから直そうとか、事故が多いからこうしようとかが先にくるべき」

「世界的に経済界から’しあわせ’という言葉が消えてしまっている」

「どうすべきじゃなくて、どうあるべきか。How to doじゃなくてHow to be」

<小林コメント>

今回の評伝の核心といえる部分ではないかと感じます。なんとなく塚越さんの言質はいわゆる’べき論’ではないかと感じる向きもあるようですが、そうではないと指摘されているのです。こうせよ、ああせよという「やり方」ではなく、こうなろう、そうありたいという「あり方」を体現していくことこそが幸せ軸の要であるという意志とメッセージが強く伝わってきます。

成果主義への疑問、年功序列への確信

「私は成果主義や能力給といった人事制度には疑問を感じています。妬みが必ず生まれます。人件費が社員全員のしあわせに繋がっていない。社員みんなで頑張るといった社風なんて生まれません」

「年功序列のいいところは、社員が40代、50代になって、子どもたちの教育費などにお金が必要になってきた時に、きちんと暮らしが成り立つ制度だと思います」

「将来への憂いをなくし、安心して働ける制度づくり、環境づくりが、経営者の大切な仕事の一つではないでしょうか」

<小林コメント>

政府御用達のジョブ型は目先を変えた成果主義です。日本産業界が30年にわたって元気を失っているのは成果主義を蔓延させすぎたためにほかなりません。伊那食品工業や未来工業など人を大切にする経営に成功し永年好業績の企業はジョブ型は断固していないのです。今なお年功序列と終身雇用を揺るぎなく実践継続しています。加齢と共に経済的にも精神的にも豊かな人生を歩んでいけることこそが幸せの最たる形と信じて疑わず実際に叶えているからです。これが真実で結論です。30年無策だった政府に騙されてはいけません。また、それを喧伝してくるシンクタンクやコンサルにも惑わされてはいけません。ここははっきりと断言しておきます。10年先にも今の会社の経営を担保してくれるのはジョブ型のような業績軸ではなく、幸せ軸による人を大切にする経営です。

悠久の時を刻み続けている伊那食品工業。その奥義に、今回また一段と近づくことができました。良書に巡り合えたことに深謝し筆をおくことといたします。(完)

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